逃れられぬ宿命

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2月14日・・言わずと知れたバレンタインデーである。
街中ではこの時期になると女の子たちが好きな人のことを思いながら一生懸命にチョコレートを品定めしている光景をよく目にするそんな甘い季節である。
しかし・・それはあくまでも世間様一般の話でここ閻魔庁召喚課では悪夢の季節であった・・・・



「おはよう、亘理♪」
と元気よく朝から亘理のラボに向かった召喚課の花こと都筑だった。
「おはよーさん、何か嬉しそうやないか。いいことでもあったんか?」
「何言ってるんだよ、亘理=3・・今日はバ・レ・ン・タ・イ・ンだぜ!!!」
と都筑は頬を緩めながら言った。
甘味大王の彼にとっては嬉しいことこの上ない日である。
何たってただでチョコが食べれるのだから・・・
だが亘理の頬に一筋の汗が流れたのを003は見逃さなかった。某動物好きさんも驚きの躾である。(笑)
内心亘理は『もうそんな季節が来てしまったのか』と時の過ぎる速さをうらめしく思った。
一方そんな瞳に失望とも自嘲とも言えない色を浮かべた亘理に気づく筈もない都筑はみなさんお分かりの通り恐ろしい言葉を可愛らしい口で綴った。

「はい、これvv今年も手作りだよん♪」
と誇らしげに都筑はお店も顔負けな綺麗なラッピングの施されたチョコを何故か壁際に擦り寄る亘理に渡した。
「お、おおきに・・v毎年きぃつかわんでええのに・・・」
「みずくさいな〜亘理♪オレチョコ貰うのも好きだけど作るのも好きだからさvv早く食べてみてくれないか?生チョコ作るの初めてだから早く感想聞きたくて・・」
「い、今?!」
「うんv・・駄目?」
都筑は目をきらきらさせながら亘理の様子を見ている。

第三者がこんな光景を見たら目を疑うかもしれない。
なぜならチョコは包装よし、見た目よし、匂いよし・・
これを口にするのに一体何が問題なのだろうと・・・
中には亘理がひどい人の様に見えてくる人もいるかもしれない。
しかし、そこの人に言っておきたい・・見掛けと中身が同じ人間なんて見たことあるだろうか・・・?
答えは否である。
それと同じように見かけと味が同じということはない・・・
つまり・・・・都筑の料理は・・・・・まづいのである・・
ただまづいならまだ救いようがあるが、都筑の料理の味は殺人的だった・・・・



大事な親友の頼みを断るわけにも行かず亘理は腹をくくった。
『ラボのことは任せた・・003』と003と視線を交わすと切なげに瞳を揺らした003は『判りました』と頷いたように見えたのは気のせいだろうか

「じゃあお言葉に甘えて・・あむ・・・・・・」
「どう?」
「最高やで都筑・・・・・・・」
とだくだく涙を流した亘理は答えた。
「良かったvvじゃあまたあとでねvこれから巽のとこ行くから」
と親友は足早にラボを去って行った・・
「おう」
と精一杯の気力で親友を見送った亘理はついに力つきその場に倒れ付した・・
暗転しつつある意識の中で亘理は『これはきっといつも都筑を実験台にしてる罰や・・神様これからはいい子にするさかい・・来年はどうか幸せになれますように・・そして巽・・・グッドラック・・・』と後世へと願いを託した。



意識が薄れていく亘理のラボにノックの音が鳴り響いた。
「あれ?亘理さんいないのでしょうか?」
廊下には巽が大好きな帳簿を抱えて佇んでいた。
もう一回念のためにノックをしてみたが一向に出てくる様子はない。
「実験に熱中して気づかないんですかねぇ・・亘理さん失礼しますよ」
と思い切って巽は亘理のラボへと足を踏み入れた。
すると床には火サスを彷彿とさせるような格好で倒れ付したまだ辛うじて息のある亘理の姿があった!!
しかし巽はそれ程驚いた様子はなく
「もう死神が来ましたか・・・・」
とだけつぶやいた。死神とはもちろん・・・・・・・


亘理のラボを後にした(見捨てたともいう)巽は廊下を歩きながらじわじわと自分に差し迫る危機への対処法を考えていた。
『医療費も馬鹿にならないしなぁ・・・逃げ切るしかない・・』
とくじけそうになる自分を叱咤し決意を固めた。
医療費という言葉に疑問を感じた方へ注釈だが都筑の料理は死神の再生能力すら凌駕する味なのである。



「巽はもう休憩時間になったかな」
と言いながら都筑は課長室へと向かっていた・・
すると何と反対方向から同じく課長室へと向かう巽の姿があった!!!
しかし虫の知らせというのを聞いたような気がしたいつもは現実主義者な巽が
側の壁へと身を隠した・・と同時に都筑の
「巽ぃ〜♪入るよー」
という声が聞こえ取り敢えずは危機を逃れたことに胸を撫で下ろした巽だった。
「ふぅ・・・危なかった・・今日はまだ仕事があるんです・・今倒れるわけにはいきません」
と戦士の目(どんな目?)をした巽は決意を新たにした・・・・・




キーンコーンカーンコーンと休憩時間の終わりを告げるチャイムの音がなった。
「あーあ課長室にもいないや・・・・今日は朝礼後もすぐどっかに行ってたから余程巽は忙しいんだなぁ」
と度重なるすれ違いに都筑は肩を落として課室に戻った。
都筑はこれから自分のエリアへの出張なのだ。


がちゃりと扉を開け部屋に入ると若葉の姿があった。


「若葉ちゃん・・ちょっといいかな?」
と都筑は可愛らしいセーラー服の少女に声をかけた。
「なぁに?」
「あのさ、今からオレ長崎に出張だからさ・・・巽にこれ渡しておいてくれるかな?」
「いいわよ」
と若葉は都筑から小さな包みを預かった。




「今年は何とか逃げ切れたみたいですね・・・・」
と壁時計の時間を見て巽は言った。
そう今頃都筑は長崎の空の下である。
「都筑さんの通った後には屍の山(都筑のチョコを食べた方々vv)があるのでそれを目印に逃げましたけど・・・疲れました・・」

コンコンと課長室をノックする音がした・・
「はい」
「失礼します・・巽さんやっと見つけた〜!!もう探したわよ!!
はい、これ・・・」
と若葉が手渡すと同時に
「閂〜!!もう行くぞ〜」
と始のせかす声がしたので若葉は
「じゃあ私急ぐから」
と慌しくその場を後にした。



「年をとっても嬉しいものですね」
とおやじな発言をしながら巽は包みを開いた。
「折角ですから疲れをとるためにもいただきますか」

「あむ・・」
っと口に入れるとなんとも言えない想像を絶する味が口中に広がった・・・
言葉では形容しがたい、材料は何を使ったのか恐ろしくて聞けない、聞いてはいけない大自然の摂理を超えた味がした・・・・



「不覚・・・」
とつぶやきながらデスクの上に巽はがくりとうなだれた。



閻魔大王への報告を終えた課長が部屋に戻ってみるとそこには顔を伏せた巽の姿があった。彼が居眠りとは珍しいなと思いつつ歩み寄る。

「おい、巽。例の件じゃが・・・」
すると優秀な部下の周りにはひよこがくるくる回っていた(笑)
みようによっては天使かもしれない(笑)
「って、おい!!しっかりせんか!!巽!!誰か救急車を!!それとも霊柩車か?」

と混乱してお茶目なボケをしてみた課長は我にかえって叫びながら一生懸命巽を揺すると

「課長・・・じょう・・だんは・・・よし・・・・」

と蚊の鳴くような声で巽はつぶやいたそうな・・



その頃長崎の空の下では・・
「ねぇ、密・・vvいいものあげるから手を出してvv」
とまだ犠牲者を出そうとしている都筑の姿と
「ふっ・・・とうとうオレの番がきたか・・・」
と潔い美少年が仲良く(?)仕事していましたとさ
                         めでたしめでたし




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