赤ずきんちゃん・・・?


―むか〜しむかし。あるところにごっつ可愛いと評判の女の子がおってん。
お母んに作ってもらった真っ赤な頭巾がトレードマークのその子は、皆から「赤ずき
んちゃん」と呼ばれとった・・・。


舞台の幕がゆっくり上がって行く。客席から拍手と歓声・・・が、爆笑に変わった。


―おいっ、ちょー待てや赤ずきん!しょっぱなからそれはないやろ!


いかにもメルヘ〜ンな森と欧州の田舎の家のセットがあった。そして家の中の椅子に
大股かっ広げて座り、タバコをスパスパふかしている・・・赤ずきんちゃんが、い
た。(もちろんスカートです)
「寺杣・・・ここに来て不機嫌MAXだな」
「最後まで嫌がってたもんねえ・・・でもまあ、笑いはとれたわよね。つかみはオッ
ケーってところ?」
「やっぱり、密くんの方が可愛くって似合ってましたのに〜赤ずきんちゃん」
「いやだっつってんだろ!」


舞台の袖で都筑、弓真、さや、密が寺杣演じる赤ずきんを見つめていた。


ここは閻魔庁の大講堂。毎年行なわれる「新人職員歓迎激励会」の真っ最中である。
各課やサークル等が様々な出し物をステージ上で演ずるのだが、召還課はここ数年、
この時期に仕事が重なる事が多く、参加を見送り続けていた。
が、今年はヒマな職員が確保でき、何故か今回に限り「今年はうちも是非参加するぞ
!」と、意気込む課長に後押しされ、参加する事となった。
だが、そうはいっても参加が決まった時はすでに歓迎会まで一週間しか日にちがな
かった。
すぐに準備が出来て、練習もあまりいらない出し物・・・それがみんな知ってる「赤
ずきんちゃん」の芝居だったわけだ。
最初は「この歳で赤ずきんは切ないだろうよ」「こっ恥ずかしくてやってられっか」
など避難ゴーゴーだったが、提案者・巽征一郎氏によってその意見は粉砕された。
彼の言い分はこうである。
セットや衣装はこれまでの歓迎会ets・・・で使用されてきた昔の物が倉庫に残っ
ており、使いまわし出来るので準備に時間を割かれる事もない。(予算もいらない←
ここ重要)
芝居の内容も大して台詞を覚える努力もいらない物だし、ストーリーは皆知っている
のだから、台詞を忘れたとしても、いくらでもアドリブはきく。(誰かさんへの配慮
ですよ)
むしろ、「この」メンバーなら単純な芝居でアドリブをバンバンきかせて笑いを取っ
た方が正解でしょう――。
引っかかる点は多々あれど、正論なだけに反論出来る者もいなかった。
そして厳正なるアミダくじの結果・・・各々の役割が決まった。

「まあ、赤ずきんたら!いつも言ってるでしょう、女の子が足広げちゃいけませんっ
て!」
家の奥から赤ずきんのお母さん―若葉が登場した。

「今まで黙ってたが俺は男なんだよ」
「タバコの吸いすぎも良くないわ。健康な赤ちゃんが産めなくなっちゃうわよ?」
「産むかー!!」

「寺杣そっくりの赤ちゃん・・・」
ぼそっとつぶやいた都筑の思考をうっかり覗いてしまい・・・密はその夜、悪夢にう
なされる事になった。


―夫婦漫才はもうええから、話進めてーや。


「やあだ、亘理さんたら、夫婦だなんて〜vv」
「てっ、てめえ亘理!後で庁舎ウラまで来い!!」
ナレーション・・・というかツッコミはもちろん亘理である。彼はナレーションだけ
でなく、芝居の台本もアレンジを加えて書いていた。


「ところで赤ずきん、あなたにお使いをお願いしたいの。おばあさんが風邪をひい
て、寝こんでしまったのよ。だからお見舞いの品が入ったこの籠をおばあさんの家ま
で届けてくれる?」
「今更何差し入れたってどーにかなる歳じゃねえだろ」
「・・・あの写真ばら撒かれたい?」
「そっこー行って来るぜ!」

―・・・写真て何が写ってんねん。

「ひ・み・つ♪」

「寺杣さん、泣き崩れてますわね・・・」
「あーっ!スカートで鼻かまないでよー!後でお直しして密くんに着てもらうのに
い〜!!」
「密はあの衣装間違いなく似合うよね」
都筑の腹に強烈なボディブローが入った。胃液が喉元までせり上がる。
「もうすぐ出番だ。準備しろ」
「・・・ぁぃ」
ちなみに、弓真とさやは衣装係(サイズ直し)である。

「寄り道しないでねーv」
「おう」

―お母んに見送られてお使いに出た赤ずきん。さっそく魔の手が忍び寄って来おった
で。悪〜いオオカミの登場や。


「こんにちは赤ずきんちゃんvこれからどこにいくの〜?」
―すたすたすた。
「おばあさんの家にお使いかな?えらいねえ〜何をお見舞いに持っていくの?」
―すたすたすた。
「お見舞いといえば花だよね。森の向こうに綺麗なお花畑があるよvちょっと摘んで
いかない?」
―すたすたすた。


「てめえっ!ここは無視するところじゃねえだろっ!」
「・・・ああ?何で犬がしゃべってんだ」
「オオカミだっ!」

「犬だよな」
「犬よね」
「犬ですわ」
付け耳・付けしっぽが愛らしい、自称オオカミの・・・犬都筑がきゃんきゃん吠えて
いた。


「・・・抜かり無く撮影できているねワトソン?」
「はい、バッチリ」
「最初は赤ずきんが都筑でないと聞いて落胆したが・・・露出度の低い衣装よりアニ
マルコスプレの方が萌えるねえ・・・vv」
秋葉原で買ったばかりの最新式デジカメに頬擦りする伯爵であった。


ずぎゅうううううん。
突如銃声が鳴り響いた。思わずのけぞる犬・・・もといオオカミ。舞台の袖から猟銃
を手にした狩人・密が現われた。
「痛いよ密ぁっ!ゴム弾でも当たるとけっこーキツイんだよっ?!」
「そりゃ痛いだろう。狙ってるし」
「何で狙うんだよう!当てる必要ないだろ?!」
「ハンターは狙った獲物を逃さないんだ」
再びオオカミを狙い打つ狩人。きゃう〜んきゃう〜んと鳴きながらオオカミは舞台の
奥に走り去り、狩人はオオカミを追っかけて行った。銃は狙いをつけたままである。
二人の姿が見えなくなった後も、きゃいんきゃいんと声はしばらく続いていた。
「・・・情けねえ、ここでも尻に敷かれやがって」
けっ、と毒づく赤ずきん。

―お前んとことええ勝負やな。

「ほっとけ!!」
中指立てて(お下品)怒る赤ずきん。気を取り直し、歩き出そうとして・・・前方に
何かテープが張られているのに気がついた。よく見ると、「KEEP OUT 立入
禁止」と書いてある。警察が何か事件が起きた時、現場に一般人を入れないよう張る
テープである。
「はいはーい、下がって下がって!ここから先は入らないでねー」
突如現われた婦人警官・・・千鶴が通せんぼする。
「何だ?!事件か?」
「この先のコンビニに強盗が入って、店員が人質に取られてるんです」
むかあ〜しのヨーロッパの森の中で・・・。
「おっしゃあ!そういう事なら俺にまかせろおっ!」
「あっ、待ちなさい!」
「太○に吠えろ」の新人刑事よろしく、赤ずきんは走り去って行った。

―根が単純な赤ずきんはお母んの言いつけも完全に忘れてしまいおった。ほんま、都
・・・オオカミとええ勝負や。おっと、ここで第一幕終了やな。皆しばらく待っとっ
てや〜。

すーっと幕が下りた。ざわつく観客席。幕の向こうではセットを大急ぎで移動してい
るらしく、「邪魔だどけ」「いつまでも泣いてんじゃねえ」「ネガはまだあるのか」
などの怒号が聞こえた。

―再び開幕―

―ここはおばあさんの家や。赤ずきんの家を移動させただけやんけ、なんちゅうツッ
コミはなしやで?予算が無いねん。巽のヤツがしぶって・・・ごふうっ!

場内を沈黙が支配する。何が起こったのかわからない新人職員が先輩に説明を受けて
震え上がる。
こうして新人教育が行なわれていくのだ。
「大丈夫かなあ亘理・・・」
ぶつぶつ言いながらオオカミが登場した。人工物のはずの耳としっぽは何故か垂れ下
がっていた。
セオリー通り、おばあさんを食べる為、おばあさんの家のドアを叩く。
「こんにちはおばあさん、赤ずきんよ」
「鍵は開けてあるよ。早くお入り」
ベットの中のおばあさんが答えた。頭まですっぽりと布団をかぶっている為か、声が
くぐもって聞こえづらい。
あれ?ここはおばあさん(課長)が鍵を開けにドアまで来るはずだけど・・・。
不信に思いながら、まあアドリブだろうとオオカミはずんずん家の中に入っていっ
た。
「ふふふ、俺は赤ずきんじゃないぞ。あんたを食べに・・・」
ピタリとオオカミの動きが止まった。
「・・・おばあさん、椅子に引っ掛けてある白衣は何?」

一歩後ずさる。

「最近新調したコートだよ」

「・・・ムスクの香りが部屋に充満してるのは何故?」

また一歩。

「歳をとってもおしゃれ心をなくさない為にね」

「・・・声がとっても腰に来るバリトンヴォイスなのは?」

あと一歩。
あと一歩でドアの外に出られる。


「貴方を官能の底に導くためですよ」


おもむろにドアの脇の靴箱の扉が開き、そこから現われたおばあさん・・・いや、邑
輝はオオカミを羽交い締めにした。さり気にドアの鍵を閉める。セットなので意味は
無いのだが。

「いっやああああああ〜っっっ!!!」
「悪いオオカミですが、とても可愛らしいオオカミですねえ。たっぷりと懲らしめて
あげましょう」
「なんでお前がここにいるっ!」
「役者というものを一度経験してみたかったもので」

答えになってない。

「課長はどうしたっ?!」
「偽の呼び出し電話でお出かけ中です」
「お前どう見てもおばあさんじゃないだろうっ!いつものスーツだしっ!」
そこをつっこんでどうなるというのか。
「れっきとしたおばあさんじゃないですか。ほーら白髪」
「なんでおばあさんがオオカミを襲うんだようっ!」
「アドリブOKなんでしょう?パターン通りではつまらないので、油断大敵、勧善懲
悪という教訓を盛りこんだ物語にしようと」
気がつけばオオカミはベットまで引きずられていた。人が寝ていると思われたベッド
の膨らみは、枕で小細工してあるだけのものだった。どさっ、と一気に押し倒され
る。きゃあああvv、と黄色い歓声が客席から沸いた。
「大人しく懲らしめられなさい・・・」
都筑の上着の裾から白く長い指先が忍びこみ、妖しく蠢いた。
「いやだっ・・・!お前、恥ずかしくないのか?ここは舞台の上だぞ!みんなが見て
んだぞ?!」
「都筑さん。だからこそ、恥も外聞もかなぐり捨てて、観客に精一杯の演技をお見せ
しなければならないのではありませんか?私達は今、役者なのですよ?」
「う・・・」
真面目に語り掛けられ、言葉に詰まる都筑。感銘さえ受けていた。胸をまさぐられて
いるというのに。

「大王様、あやつはブラックリストにある邑輝という人間です!すぐにひっとらえて
・・・」
「待て」
「ですが・・・!」
「静まれ。大王様には何か深いお考えがあられるのだ」
観客席の奥の上方に、豪奢なカーテンに覆われたボックス席がある。そこでは冥府の
王とその側近達がひそやかに言葉を交わしていた。

「はっ!あやうく騙されるとこだった!(もっと早く気付け)こんなの赤ずきんちゃ
んじゃない!単なる成人指定だあっ!教育に良くない!あっ、やっ・・・」
「もともと赤ずきんは、若い娘が迂闊な行動をすれば男にどんな目にあわされるかわ
からないから気をつけろ、という教訓が含まれているのですよ?原典では赤ずきんは
オオカミに食べられて終わり。ある意味、原作に忠実なんです」
「ふざけん・・・なっ、あっ、あっ」

「うむ、良い表情だ・・・これは永久保存版にせねばな」
現在の都筑の様子をどアップで映すモニターを覗きこみ、満足げにうなずく閻魔。
その傍らで側近が携帯電話のボタンをおす。

「はい、スタッ○サービスです」
「あの、上司に・・・」
「恵まれなかったのですね」


「はっ、あっ、だめっ、もう・・・っ」
「そろそろ・・・ですか?」
いつの間にやら舞台の照明は落とされ、ベットの上にスポットライト(しかもピン
ク)が当てられている。
・・・誰も止めようとせず、固唾を飲んで見守っている。
ああ、衆人環視の中で(自主規制)なんて・・・さよなら、俺の青春・・・(意味不
明)ほろりと涙をこぼす都筑。だがしかし。


バアアアア―――ンッ!!!ズギュウウウーンン!!!


もんのすごい音と共にドアが蹴破られ、銃声が鳴り響き・・・邑輝の頭を何かがかす
めた。

「ちっ、外したか・・・」

でかい銃を片手に、眼鏡を光らせた巽が立っていた。質の良いブラウンのスーツに身
を包んで銃を構えるその姿は、さながらゴル○13である。
「た〜つ〜みぃ〜(号泣)」
「これは秘書殿。随分物騒な物をお持ちですね。今回貴方の出番はなかったはずでは
?」
「狩人の役は黒崎君とダブルキャストなんです。森の治安を守る為、破廉恥な害獣を
駆逐する為に登場したまでです!!」
再び銃声が鳴り響き、だがすんでのところで邑輝は身をかわす。

「いつの間にダブルキャストになったんですか?」
千鶴の問いに答えられる者はいない。
「あれ、実弾じゃねーか・・・?」
ぼーぜんと立ち尽くす密。その頃、保安課の武器庫では軍用ライフルが一丁紛失して
いると大騒ぎになていた。

「折角のムードも水入りになってしまいましたね。そろそろ退場しましょうか。都筑
さん、今度は二人きりの舞台で熱演しましょうね・・・」
まばゆい光と舞い散る白い羽根と共に消え去る姿を、銃弾が貫いた。

「今度はロケットランチャーを用意しますか・・・」
邑輝が消えた空間をいまいましげに睨み付け、巽は歯噛みした。

「あ〜あ、いいところだったのになあ・・・」

ぼそっと呟いた観客席の一人が、影に締め上げられて泡を吹いた。
「ありがとう巽、助けてくれて・・・」
えぐえぐとしゃくりあげながら、都筑がぱんつを引き上げる。

「助ける?何を言ってるんですオオカミさん。私は狩人ですよ?獲物は逃しません」

にーっこりと極上のスマイルで微笑む巽に恐怖を感じ、都筑は逃げようとしたが・・
・しゅるりと巻きついた影に、足元を掬われベットから落ちた。そのまま影の空間に
沈み込んで行く。

「たっ、巽?!これはどういう・・・」
「獲物を仕留めたまでです。あとは、毛皮を剥いで調理して・・・いただきます♪」
「オオカミは食べられな・・・」

そして二人の姿は完全に影に消えた。



―こうして哀れなオオカミは、狩人のエジキになりよった。・・・ええか、新人共。
この物語の教訓はな、「さわらぬ神にたたりなし」っちゅう事や!よおっく肝に命じ
とけ!わかった・・・な・・・・


―閉幕―


「あ、亘理さんまた気絶したな・・・」
「始ちゃん、再登場出来なくて残念ね〜」
「わっ、ばかやろう写真なんか撮るんじゃねえ!」
このいいかげん極まりない芝居、もちろん優秀賞などはもらえようはずもなかった。
が、客席アンケートの結果・・・「出来はともかく、一番笑った」という評価を頂
き、見事「敢闘賞」(別名「よくがんばったで賞」)と賞金10万円を召還課は手に
する事が出来たのである。


「おつかれさまでした!それじゃあ打ち上げパーティーと行きましょうか!」
「いいわね〜どこ行こうか」
「でも何か忘れてる気がしますわ・・・」
「巽と都筑ならええで、あいつらは今ごろまだ本番の真っ最中や」
「他にも何かあったような・・・」


深夜、閻魔庁舎裏。
吹きすさぶ風の中、近衛課長は今だ来る気配の無い相手を待ち続けていた。
―轟よ、去年は保安課男性陣による「モーニン○娘。メドレー」が話題をさらったと
自慢しておったが、今年はそうはいかんぞ・・・!


来年は召還課男性陣による、「ピン○レディーメドレー」の、予定。






おわり。



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